分散型金融 DeFi — オンチェーンとスマートコントラクトベースの金融市場 訳

Yuya Sugano
57 min readAug 25, 2021

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2020年はDeFiが注目を浴びフラッシュローンによる攻撃が相次いだ年でした。現在はDeFiがかなり市民権を得てきたように感じます。Forbesyahoo financeでもDeFiに関する記事が公開されNFTと同様にDeFiに対する一般層のトラクションが高まってきています。DeFi/NFTという言葉自体が通じるようになってきたのではないでしょうか。またDeFiのプロトコルのマルチチェーン化(特にSushiSwapなど)と昨今のブリッジングサービスの開発によって複数のチェーンや分散型の市場で相互に暗号資産の取引を行うことが容易になっています。この記事ではアメリカ邦準備制度理事会(FRB)の地区連邦準備銀行であるセントルイス銀行(St. Louis Fed)が公開したDeFiに関する調査レポートを意訳・翻訳した内容を記述します。ブロックチェーンはDeFiなどによって通貨・債権・株式・所有権などのアセット等を地理的・時間的・コスト的制約から解放されて移転することができる、「価値交換のプロトコル」として分散型で水平展開のインフラを金融領域にもたらしはじめています。

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Disclaimer

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レポートの内容は基本的でDeFi全体を分かりやすく俯瞰したようなものになっています。このセントルイス銀行のレポートの前にマルチチェーン化とブリッジングサービスについて簡単に状況を説明します。[1]

DeFiのマルチチェーン化

各チェーンにおいてUniswapのようなDEXをはじめとするDeFiプロトコルのプロダクトが当初より開発されてきていましたが、2020年後半ぐらいから既存プロトコルのマルチチェーン化が発生し始めました(と感じています)。2021年のCoinGecko四半期レポートQ1のページ22で示されているようにBSC(Binance Smart Chain)やPolkadot、Fantomへのチェーンの拡充が各プロトコルにおいて実装また検討されています。Solanaに対応する既存のサービスはそれほどありませんが、OrcaやSerum DEXなどを始めとして独自のDeFi/DEXエコシステムを形成しているようです。[2]

CoinGecko-2021-Q1-Report-JP.pdf

また上記のチェーンに加えて考慮する必要のあるチェーンがCardano、Polygon、Avalanche、Cosmosなどでしょう。いずれのチェーンにおいてもEthereum上でトランザクションを発行するよりも安い手数料で取引ができます。小口ユーザなどの一般投資家層は手数料が安く早いチェーンを選好する傾向にあると考えられます。そしてPolygonの急速な発展からは目が離せません。意外かもしれませんが主要なDeFiプロトコルは既にPolygon上への実装を済ませています。SushiSwap、Aave、Cream Finance、Curve、Balancer、1inchはPolygon上で使用することが可能です。DEXとしては主にQuickSwap、ParaSwapが使用されています。[3]

AvalancheのC-Chain(EVM互換のプライマリチェーンの1つ)ではPangolinというUniswapフォークのDEXプロトコルが稼働しています。先日Avalanche Rushとう1.8億ドル(約197億円)のファーミングのインセンティブを用意するとの発表がありました。これは既存のDeFiユーザをAvalancheへ呼び込むインセンティブを与えるもので、既にAave、Curve、SushiSwapは新しいネットワークのデプロイなどの準備に合意しているということです。[4]

先月に既存のAEB(Avalanche Ethereum Bridge)が廃止され新しいクロスチェーンブリッジのプラットフォームであるAB(Avalanche Bridge)が発表されました。Intel SGX Enclave 技術を使用しておりよりセキュアで改ざん防止対策のされているブリッジサービスになっています。手数料も以前のAEBより5倍近く安くなっているそうです。現状はEthereumのみですがクロスチェーンとして他チェーンとのブリッジも実装されていく予定です。

C-Chain is compatible with EVM, MetaMask can be used

国内の注目される動向としてはJPYCのチェーンの拡充でしょう。前払い式支払い手段としてERC-20で実装されているJPYCですが、2021年1月にEthereum上で提供を開始してから既に1億円同等以上を発行しています。Ethereum/xDAI/Polygonのチェーンに対応しており現在はSolanaへの実装を進めています。Polygonの手数料が安いことから流動性提供やファーミングなどでの使用を目的とした購入が続いていると考えられます。[5]

ブリッジングサービスの台頭

チェーン間のアセットのブリッジを行うサービスが複数登場してきました。またマルチチェーンで提供しているサービスが多くEVM系のチェーンであるEthereum/xDAI/BSC/Polygon/Avalancheなどを繋ぐことが容易になってきています。特に手数料の安いチェーンからの移動は流動性の移動に便利で流動性を移動してファーミングなどを行いたい人にとっては必須のサービスであると考えられます。OmniBridgeやxPollinateなどのサービスで一部のアセットはトランスファーが可能です。

https://omni.xdaichain.com/
https://xpollinate.io/

アセットのチェーン間のトランスファー以外にもブリッジング・クロスチェーン関連のサービスは開発されています。AnySwapはクロスチェーンのスワッププロトコルですが現在のAnySwap V3ではクロスチェーンスワップを新たに導入してきました。DEXプロトコルのマルチチェーン化を既に取り上げましたが、DEXプロトコルにおいてもクロスチェーンのスワップやクロスチェーンスワップを行えるプロトコルのインテグレーションが進んでいくものと考えられます(マルチチェーンからクロスチェーンへの動き)。[6]

Fees and Chains

クロスチェーン流動性プロトコルを標榜するRouter Protocolも興味深いアイディアを投じてきました。RouterのCross-Chain Liquidity Protocol(XCLP)プロトコルはコントラクトレベルのデータフローを許可することで、ステーブルコインを価値移転の媒介としたアセットレベルのトランスファーを可能にするとのことです。現在は2021 Q2でテストネットが公開されている段階です。[7]

Router Protocol
Router-Litepaper.pdf

その他に見ておくべきサービスとしてはHop.ExchangeEVODefiSupraなどがあります。Supraについてはこちらの記事を参考にしてください。ここまでを前置きとして以降はセントルイス銀行のレポートへ移りたいと思います。このレポートは2月公開で少し前のものですがよくまとまっており、分量もちょうどよいので取り上げました。またcoindeskやCoinTelegraphの以下の記事もさらっと読むにはよいかと思います。[8] [9]

※全文訳ではなく重要なところのみを取り上げ、場合に応じて意訳しています。また追加の情報や文章を加えている場合もあります。

要約

DeFi(分散型金融)はスマートコントラクトを活用することで、既存の金融サービスをよりオープンで相互運用可能、そして透過的な方法で実現するプロトコルを形成します。この記事では、DeFiエコシステムの機会と潜在的なリスクに焦点を当てます。トークンスタンダード、DEX(分散型取引所)、分散型債券市場、デリバティブ市場、オンチェーンアセットマネジメントプロトコルなどのDeFiビルディングブロックを分析し、そのためにマルチレイヤーフレームワークを提案します。 DeFiは依然として特定のリスクを伴うニッチ市場ですが、効率性、透明性、アクセス性、およびコンポーザビリティの点でも興味深い特性を持っていると結論付けられます。DeFiは上記の特性から堅牢で透明性の高い金融インフラストラクチャとなる可能性があります。

1. イントロダクション

分散型金融(DeFi)は、多くのトラクションを集めているブロックチェーンベースの金融インフラストラクチャです。DeFiという用語は一般的にイーサリアムなどパブリックなブロックチェーンのスマートコントラクトで実装された、オープンでパーミッションレス、相互運用可能なプロトコルスタックを指しています。DeFiは既存の金融サービスをよりオープンで透明性の高い方法によって実現することができます。

特にDeFiは特定の中間者や中央集権的な機関に頼ることではなく、オープンなプロトコルと非中央集権的なアプリ(DApps)によって成り立っています。契約や処理はすべてコードによって執行されます。トランザクションはセキュアで検証可能な方法で実行され、正当なステートの変更はブロックチェーン上に記録されます。このステートは誰でも閲覧が可能で改ざん不可能です。

したがって、このようなアーキテクチャは前例のない透明性、アクセスの平等性、またカストディアン・中央集権的なクリアリングハウス・エスクローサービスの必要性がほとんどないイミュータブルで高度に相互運用可能な金融システムを実現することができます。これらの役割のほとんどが「スマートコントラクト」によって引き受けることが可能となっています。

※FinTechの分野と同様に分散型金融においても金融のアンバンドリング・リバンドリングといった動きがあるが分散型金融においては非中央集権的にそれらが実現されることに大きな違いがある

DeFiにはすでに多様なアプリケーションが提供されており、例えば、DEX(分散型取引所)で米ドル(USD)に固定された資産(ステーブルコイン)を購入し、これらの資産を分散化されたレンディングプラットフォームに担保して利息を稼ぎつつ、プラットフォームから発行されたトークン(Interest-bearing Token)を流動性プールやオンチェーンの投資ファンドに追加投資することができます。

DeFiプロトコルのバックボーンはスマートコントラクトです。スマートコントラクトはブロックチェーン上に保管されているコードで、ブロックチェーンのバリデータ(ノード)によって検証され実行されます。スマートコントラクトは常に指定どおりに実行され、結果として生じるステートの変化をだれでも確認することができます。スマートコントラクトは透明性が高く、操作や恣意的な介入のリスクを最小限に抑えることができます。

従来の中央集権的なサーバベースのアプリケーションでは、利用者はアプリ内部のロジックやコードを知ることができませんでした。またアプリの実行環境のコントロールもない状態です。アプリや実行環境は管理者に不正に操作される可能性があり、それを利用者が知ることはできません。スマートコントラクトはそれらのリスクを軽減してロジックが想定通り動いているかどうかを保証することができます。

スマートコントラクトのコードはブロックチェーン上に保管されており、その動作は決定的です。例えば口座の残高が変わるようなトランザクションが発生すると、チェーンのステート変更を引き起こすため、変更はブロックチェーンのコンセンサスへの適用対象となり数千のバリデータによる検証の後に結果反映され、ステートツリーに保護されるようになります。

Vitalik Buterinはこのようなコード実行環境に関する信頼問題を解決し、安全なグローバルステートを実現するために分散型ブロックチェーンベースのスマートコントラクトプラットフォームを提案しました。このようなプラットフォームにより、スマートコントラクトは相互作用が可能となりコンポーザビリティを達成することができるようになります。この概念はWoodによってさらに形式化されEthereumというブロックチェーンとして実装されました。Ethereumは時価総額、利用可能な分散型アプリケーション、開発者コミュニティの面で現在世界最大のスマートコントラクトプラットフォームとなっています。

DeFiは以前としてニッチな市場ではありますが、市場規模は急速に拡大しています。DeFiプロトコルのスマートコントラクトにロックされている資産は1000億ドルを超えてきています。重要な点はこの数字はマーケットキャップやトランザクションのボリュームではないという点です。以下の表はEthとUSDCのTVL(Total Value Locked)を表したものです。

このようなDeFiの飛躍はDeFiがより広い文脈で関連するようになる可能性があり、政策立案者、研究者、および金融機関の間で関心を呼び起こしていることを示唆しています。この記事は経済学や法律のバックグラウンドを持つ組織の個人を対象としていて、調査およびトピックの紹介として役立つと思われます。

2. DeFiビルディングブロック

DeFiは複数のレイヤーから成り立っています。各レイヤーには役割があり、相互に構築されています。誰もがスタックの他の部分を利用したり構築したりできるようなオープンでコンポーザブルなインフラとなっています。レイヤーが階層的になっており下部構造のレイヤーのセキュリティに支えられています。例えば決済レイヤーであるブロックチェーンに欠陥がある場合には後続のレイヤーもセキュアではなくなるでしょう。同様に、もしパブリックチェーンではなく、許可型のレジャー(Permissioned Ledger)を採用する場合には後続での分散型の取り組みには効果がなくなります。以下はDeFiのレイヤーを図示したものです。

ここからのセクションでは、それぞれのレイヤーを分析し、トークンレイヤーとプロトコルレイヤーをより詳細に調査します。上記のフレームワークで示すように決済(セトルメント)レイヤー、アセットレイヤー、プロトコルレイヤー、アプリケーションレイヤー、そしてアグリゲーションレイヤーというように分類しています。

  1. 決済(セトルメント)レイヤー — ブロックチェーンとそのネイティブプロトコルアセット(例えばEthereumブロックチェーン上のEth)で構成されます。ネットワークは所有権などの情報を安全に保存し、ステートの変化がコンセンサスに基いたルールセットに準拠するようになります。ブロックチェーンネットワークはトラストレスな処理実行の基盤と見なすことができ、決済(セトルメント)のレイヤーとなります。
  2. アセットレイヤー(Layer 2) — 決済(セトルメント)レイヤーの上に発行されるすべてのアセットで構成されます。これにはネイティブプロトコルアセットと、このブロックチェーンで発行される追加のアセット(ERC-20、ERC-721などのトークン)が含まれます。
  3. プロトコルレイヤー(Layer 3) — DEX(分散型取引所)、債券市場、デリバティブ、オンチェーンアセットマネジメントなどの特定のユースケースの標準を提供します。この標準はスマートコントラクトのセットとして実装されており、すべてのユーザーやDeFiアプリケーションがアクセスできます。
  4. アプリケーションレイヤー(Layer 4) — それぞれのプロトコルに接続するユーザー向けのアプリケーションのレイヤーです。スマートコントラクトのやり取りWebのフロントエンドによって抽象化され、プロトコルを呼び出すことで容易に使用できるようになっています。
  5. アグリゲーションレイヤー(Layer 5) — アプリケーションレイヤーの拡張レイヤーです。アグリゲーターは、複数のアプリケーションやプロトコルに接続するユーザー向けのアプリやプラットフォームを提供します。各プロトコルのサービスを比較したり評価するためのツールを提供し、ユーザーが複数のプロトコルに同時に接続することで複雑なタスクを実行できるようにします。

DeFiビルディングブロックの概念を理解したところでトークンレイヤーとプロトコルレイヤーの調査へと移ります。アセットトークナイゼーション(アセットのトークン化)について簡単に見たあとで、分散型取引プラットフォーム、デリバティブ、およびオンチェーンアセットマネジメントについて調査します。調査によってDeFiの可能性とリスクの分析に必要な基礎を確立します。

2.1 アセットトークナイゼーション

パブリックブロックチェーンは、簡単にいうと参加者が共有されたイミュータブルな所有権の記録であるところのレジャーを確立するデータベースです。通常はブロックチェーンのネイティブプロトコルアセット(EthereumのEthなど)の記録のみを取り扱っていましたが、ブロックチェーンテクノロジーが普及するにつれて、追加のアセットを利用できるようにするというアイデアが登場しました。ブロックチェーンに新しいアセットを追加するプロセスはトークン化と呼ばれアセットのブロックチェーン表現はトークンと呼ばれます(EthereumのERC-20やERC-721などの規格で表現されます)。

トークン化の一般的な考え方は、アセットをよりアクセスしやすくし、トランザクションをより効率的にすることです。特にトークン化されたアセットは、世界中の誰とでも簡単に中間者なしで直接送受信できます。トークンは多くの分散型アプリケーションで使用することができ、スマートコントラクト内にアセットを保存できます。アセットであるトークンはDeFiエコシステムの中で重要な役割を担います。

技術的な観点においてパブリックブロックチェーンでトークンを作成するには様々な方法がありますが、現在はトークンの大部分はEthereumブロックチェーン上のERC-20というトークン標準のスマートコントラクトのテンプレートを用いて発行されています。それぞれのトークンは相互運用可能でDeFiアプリケーションで使用することができます。2021年の1月現在、Ethereum上に35万を超えるERC-20規格のトークンが展開されています。以下のTable 1は、チェーンにおいて取引所にリストされているトークンの数と、そのチェーンあたりの米ドルでのトークン時価総額の合計を示しています。取引所にリストされている全トークンのほぼ90%はEthereumブロックチェーン上で発行されていることが分かります。

経済的な観点からは実際にトークンとして実装された資産としての性質が興味深い点だと思われます。チェーン上にアセットを追加する1つの動機はステーブルコインの追加です。アプリケーションでネイティブトークンであるEthを使用することは可能ですが、多くの金融のスマートコントラクトでは低ボラティリティな資産が必要となります。トークン化によってステーブルコインをアセットとして作成できます。

ただし、トークン化された資産に関する主な懸念事項の1つは発行者のリスクです。 Ethなどのネイティブトークンはこの点で問題はありませんが、反対に利息の支払い、配当、商品やサービスの提供などのために誰かがあるトークンを導入する場合、このトークンの価値はトークンの発行者の信頼に依存してしまいます。トークン発行者の信頼性がない場合、トークンの価値がなくなるか、価値が大幅に毀損される可能性があります。このロジックはステーブルコインにも適用されます。

一般的にステーブルコインの信頼性を担保するために3つの方法が存在します。オフチェーン担保、オンチェーン担保、無担保の3つです。

  1. オフチェーン担保 — USDC/USDTにように裏付けとなるUSD資産が現物として担保されている方法です。この方法は安全に見えますがカウンターパーティーリスクがありブロックチェーンの外部に依存性が存在します。つまり裏付け資産が確実に存在するのか監査やリスク予防措置が必要となるためコストは高く、ユーザにとっては透明性がありません。
  2. 無担保 — いくつかのプロジェクトはペグを維持するための裏付け資産のない方法を採用しています。AmpleforthやYAMなどのリベース系のトークンはステーブルコインとして適正でないことに注意してください。Ampleforthは1ドルペグの価格維持に成功していません。動的なトークン量の形によって所有者をボラティリティにさらしています。
  3. オンチェーン担保 — オンチェーン担保にはいくつかの利点があります。透明性が高くスマートコントラクトによって債権を保護できるため、プロセスを半自動で実行することができるようになります。オンチェーン担保の不利な点としては担保となる資産が通常ネイティブアセットで保持されるため価格変動の影響を受けることです。

オンチェーン担保の例としてDAIステーブルコインを見てみましょう。MakerDAOによって提供されるDAIは1 USDにペグするステーブルコインでスマートコントラクトから発行されます。Ethereum上にはネイティブトークンとしてドルペグな資産はないためネイティブトークンであるEthを担保として提供します。EthをスマートコントラクトへロックしてDAIを発行しますが、ETH/USDのレートは変動するため担保であるEthが未払いのDAIの150%を下回ったときに債務過剰として、スマートコントラクトは担保を競売にかけ債務を解消します。

以下の図はDAIの価格、市場に流通している合計、スタビリティフィー(DAIを作成する人が支払う必要のある金利)などDAIの主要な指標を示しています。

ステーブルコインはDeFiの中で必要不可欠な要素ですが、その他にも様々なトークンがDeFiには関わってきます。分散型自律組織(DAO)のためのガバナンストークン、所有者がスマートコントラクトで特定のアクションを実行できるようにするトークン、株式や債券に似たトークン、さらには実世界の株式など資産の価格へ追随する合成トークンなど、さまざまな目的を持つあらゆる種類のトークンが存在しています。

続くセクションではプロトコルレイヤーを調査して、どのようにトークンがDEX(分散型取引所)でトレードされるか、どのようにローンの担保として活用できるか、どのように分散型デリバティブを作成できるかとオンチェーン投資ファンドへ含めることができるかを見ていきます。

2.2 Decentralized Exchange Protocol(分散型取引所のプロトコル)

2020年9月の時点で7,092もの暗号資産が取引所に存在していました。多くの場合にこれらの資産は中央集権的な取引所で取引されています。中央集権型の取引所は比較的効率が良いですが1つ問題があります。トレードするためにはまず資産を取引所へ預け入れる必要があることです。つまり中央集権的な取引所を全面的に信用する必要があり、その欠陥や外部からの攻撃などによって資産が失われる可能性があります。現に世界各国で取引所への不正アクセスやハッキングが発生し、多くの資産が失われています。

分散型交換プロトコルはブロックチェーンの持つトラストレスの特性によってこれらの問題を軽減します。ユーザーは中央集権取引所のように資産を預け入れる必要がありません。トレードなどの取引の実行はスマートコントラクトを通じてアトミックに行われ、ユーザが資産を保持したままスマートコントラクトとやり取りします。トレード両面が1つの分割できないトランザクションで実行され、カウンターパーティーリスクが軽減されることになります。スマートコントラクトが追加の役割を担う場合があり、その実装によってエスクローサービスやカウンターパーティークリアリングハウス(CCP)などの多くの仲介業者を廃止することができます。

最近では多くのDEX(非中央集権取引所)がオープンなプロトコルを採用しています。これらのプロジェクトはプロトコルの標準を提供しており、プロトコル上に構築されたすべての取引所が流動性プールやその他のプロトコルの機能を使用できるようにすることで、DEXのアーキテクチャを効率化してきました。その他のDeFiプロトコルもこれらのマーケットプレイスを活用して、必要に応じていつでも、トークンをトレードおよび清算することができます。

次のサブセクションではさまざまなタイプの分散型交換プロトコルを比較します。これらのプロトコルのいくつかは、狭義の意味での資産交換のプロトコルではありませんがこの分析には含まれています。以下は調査結果を表にまとめたものです。

Decentalized Order Book Exchanges(分散型オーダーブック交換所)

分散型オーダーブック交換は、さまざまな方法で実装できます。すべてトランザクション決済にスマートコントラクトを使用しますが、オーダーブックのホスト形式が異なっており、オンチェーンとオフチェーンのオーダーブックを区別する必要があります。

オンチェーンオーダーブックは完全が分散化されているという点にメリットがあり、注文自体がスマートコントラクトで処理・保存されます。そのためサードパーティーの情報を保管するサーバなどが必要ありません。欠点ですが既に明らかなとおりすべての処理がオンチェーン、つまりスマートコントラクトで処理される必要があることです。トレードの宣言をする処理だけでもスマートコントラクトとの介在が必要で、これにはコストがかかりまた時間もかかります。※特にEthereumを前提とすると顕著です

そのため現在多くの分散型取引所のプロトコルはオフチェーンオーダーブックに依存しており、決済レイヤーとしてのみブロックチェーンを使用しています。オフチェーンのオーダーブックは、中央集権型のサードパーティーによってホスティングおよび更新され、リレーヤーと呼ばれます。リレーヤーは約定させたい注文に必要な情報をテイカーに提供します。このアーキテクチャでは中央集権的なコンポーネントやそれに対する依存関係が存在しますが、このリレーヤーの役割・権限は制限されています。

リレーヤーはトレードされる資産に対するアクセスはなく、注文を照合したり執行したりすることもありません。決済レイヤーは引き続きブロックチェーンが担います。リレーヤーは情報提供および中継を行いその分の手数料を徴収するだけです。オープンプロトコルによってリレーヤー間の競争が発生するため、潜在的な依存関係は緩和されていきます。オーダーブック形式を採用する分散型取引所の有名なプロトコルとして0xが存在します。

Constant Function Market Maker(AMM: 自動マーケットメイカー)

※Constant Function Market MakerはAMM(Automated Market Maker)としてよく知られているためAMMと読み替えても可です

定数関数型マーケットメーカー(CFMM)は、少なくとも2種類の暗号資産をリザーブし、一方の種類のトークンを預け入れて、もう一方の種類のトークンを引き出すことができるスマートコントラクト型の流動性プールです。誰でも流動性を提供することができ、ユーザは提供された流動性プールから定数関数(Constant Product Model)によって求められた交換比率を使ってトークンをトレードします。相対価格はスマートコントラクトのトークンリザーブ比率の関数となっています。

最も単純な形式ではConstant Product Modelは xy = k として表現することができます。x と y はスマートコントラクトのトークンリザーブに対応し、k は定数です。この定数 k の値が保持されることを念頭においてください。つまりΔx が正の値であったとすると上の左図のようにΔy は負の値となり定数 k の値が保持されるという動きになります。よって全ての交換はトークンリザーブの凸曲線に従います。

このモデルを使用する流動性プールは、片方のリザーブが少なくなると片面のトークンがより高価になるため枯渇することができません。2種類のトークンのいずれかのトークン供給がゼロに近づくと、その相対価格は結果として無限に上昇するためです。

このようなスマートコントラクトベースの流動性プールは、外部の価格フィード(いわゆるオラクルサービス)に依存していないことを理解することは重要です。流動性プールの資産価格が変動するときには、ユーザはいつでもレートが現在の市場価格に収束するまで、アービトラージの機会を捉えてスマートコントラクトでトークンを取引できます。

Constant Product Modelにおけるビッドとアスクのスプレッドおよび流動性プールが徴収する手数料によって流動性プールの資産は蓄積されていきます。流動性を提供する人は誰でも、自身のプールのシェアに対する流動性トークン(LPトークン)を受け取り、流動性を引き揚げる際には元のトークンと引き換えることができます。上の右図は潜在的に成長する資産 k を表しています。Uniswap、Sushiswap、Balancer、CurveなどがAMMを採用する代表的なプロトコルです。

Smart Contract-Based Reserve Aggregation

別のアプローチとしては流動性をスマートコントラクトを通じて集約する方法があり、大きな流動性プロバイダを接続して特定のトレードペアの価格を参照できるようにするものがあります。トークン x をトークン y に交換したいユーザーは、このスマートコントラクトにトレードリクエストを送出します。スマートコントラクトは、すべての流動性プロバイダからの価格を参照・比較し、ユーザーに代わってオファーを受け入れて取引を実行します。スマートコントラクトは、ユーザーと流動性プロバイダーの間のゲートウェイとして機能し、トランザクションの実行と決済を保証します。

スマートコントラクトベースの流動性プールとは異なり、このケースでは価格は対象スマートコントラクト内では決まりません。価格は参照する流動性プロバイダによって決定されます。このアプローチは、流動性プロバイダの基盤が比較的広い場合にうまく機能します。ただし特定のトレードペアの競争が限られているかまったくない場合、このアプローチは共謀のリスクや独占的な価格設定のリスクをもたらす可能性があります。

対策としてこのようなReserve Aggregationプロトコルでは最大価格や流動性プロバイダの最小数など、複数の中央集権的なコントロールメカニズムがあります。場合によって、流動性プロバイダはKYCなどの検証を含む身元調査の後にのみ参加することができるケースもあります。このタイプの有名なプロトコルとしてはKyber Networkがあります。

ピアツーピアプロトコル

従来の中央集権的な取引所やご紹介した流動性プールのモデルの代替手段がOTC(Over-the-counter)とも呼ばれる、ピアツーピアプロトコルです。ピアツーピアプロトコルは、トレードしたい暗号資産ペアを問い合わせて相対することと、価格を調整するという2段階のステップで成り立っています。両当事者が価格について合意すると、取引はスマートコントラクトを介してチェーン上で実行されます。他のプロトコルとは対照的にこのオファーは交渉に関与した当事者のみが受け入れることができます。サードパーティーの誰かが未確認トランザクションをプール(mempool)で監視することによって、当該トランザクションをフロントランすることはできません。

プロセスは通常自動化されます。加えて、ピアディスカバリーにオフチェーンインデクサーを使用することができます。このインデクサーはユーザーが特定の取引を行う意図を広報するディレクトリの役割を担っています。インデクサーは接続の確立にのみ使用され、価格はまだピアツーピアで交渉される必要があることに留意してください。AirSwapがピアツーピアプロトコルの中で最も代表的なものです。

2.3 分散型レンディングプラットフォーム

ローンはDeFiエコシステムの重要な1ピースです。DeFiには暗号資産を貸し(レンディング)借り(ボロウイング)する多種多様なプロトコルがあります。分散型のレンディングプラットフォームは、借り手も貸し手もKYCなど自分自身を識別する必要がないという意味でユニークです。誰でも匿名でプラットフォームにアクセスすることができ、暗号資産を借りたり、流動性を提供して利息を得ることができます。そのため、DeFiローンは完全にパーミッションレスなデザインで、非中央集権的です。貸手の保護また借り手が資金を持ち逃げしすることを防ぐために2つのアプローチがあります。

  1. ローンをシングルトランザクションで返済することができるという条件の下でローンを提供します。これは借り手は資金を受け取ってから返済するまでを同じトランザクション内で行うことを要求します。これをDeFiではFlashLoanと呼んでいます。
  2. ローンは担保によって保護されます。担保はスマートコントラクトにロックされており債務が返済された際に解放されます。担保付きローンのプラットフォームには、担保付き債券ポジション、プールされた担保付き債券市場、またピアツーピア担保付き債券市場の3つのバリエーションが存在します。

Collateralized Debt Positions(担保付き債権ポジション)

一部のDeFiアプリではユーザーが担保付きの債務ポジションを作成し、その代わりにスマートコントラクトが担保の裏付けのあるトークンを発行します。このトークンを得るにはユーザーはスマートコントラクトにトークンをロックする必要があります。発行されるトークンの数は、発行されるトークンの価格、担保として使用されたトークンの価格、また目標となる担保比率によって変わってきます。

新しく作成されたトークンは、完全に提供担保によって得られたローンであり、このことによってユーザーはカウンターパーティなしに市場のエクスポージャーを維持しながら流動性資産を取得することができます。ローンは使用することが可能で、一時的な流動性の圧迫に使用されたり、レバレッジしたエクスポージャーのために追加の暗号資産を取得したりすることに使用されたりします。

コンセプトを説明するために、USDペグのDAIステーブルコインを発行する分散型プロトコルであるMakerDAOの例をみてみましょう。まずユーザーはEthを担保付き債務ポジション(CDP)と呼ばれるスマートコントラクトに預け入れます。次にコントラクトの関数を呼び出して、ステーブルコインであるDAIを作成し、それに伴って必要な担保をロックします。現在MakerDAOでは最低150%の担保比率が必要となっています。従ってユーザーが100 USD分のEthをロックした場合には最大で66.66 DAIを作成し、発行することが可能です。150 USD分のEthであれば100 DAIになります。

未払いのDAIは理論的にはDAIの債権市場の最大金利に相当するスタビリティフィーとなります。レートはコミュニティ、MakerDAOの場合はMKRガバナンストークンの保有者によって設定され、Figure 3(Dai Stablecoin Key Metrics)で示されたとおり0%~20%で大きく変動していることが分かります。

債務ポジション(CDP)を閉じるには未払いのDAIと利息をスマートコントラクトへ返済する必要があります。スマートコントラクトへ返済が完了すると借りては担保を引き出すことが可能となります。借り手が返済に失敗したり、担保価値が担保比率である150%を下回った場合にはローンの担保はリスクにさらされます。具体的にはスマートコントラクトが割引されたレートで清算を始めます。

この利息の支払いと清算の処理にMKRが部分的に使用されます。したがってMKRの総供給量は減少していきます。MKRの保有者はEthの極端な負の価格変動による残存リスクを想定しており、これによって担保が米ドルペッグを維持するには不十分となる可能性があります。このケースでは新しいMKRが発行され、割引価格で売られることになります。MakerDAOのシステムはかなり複雑で、分散化されていますがオラクルの価格フィードに頼っており一部依存性が存在しています。

Collateralized Debt Markets(担保付き債権市場)

新たなトークンを作成しなくとも既存の暗号資産を市場で借りることも可能です。明らかではありますがこのアプローチには反対の選考を持つカウンターパーティーが必要です。つまり誰かがEthを借りるためには、Ethを貸してくれる貸し手がいなければなりません。カウンターパーティーのリスクを軽減し、貸し手を保護するには、前の例と同様に担保によってローンを提供し、その担保をスマートコントラクトにロックする必要があります。

貸し手と借り手のマッチングは様々な方法で行うことができます。多くはピアツーピアとプールされたマッチングです。ピアツーピアのマッチングは流動性を提供している人が特定の借り手に暗号資産を貸し出すことを意味します。結果として貸し手は流動性提供開始とともに利息を得始めることができます。この手法の利点は双方が期間や金利について事前に合意できるため固定金利でレンディングを運用できることです。

プールされたマッチングによるローンは需要と供給に基づく変動金利を採用します。すべての借り手の資金は、スマートコントラクトベースのレンディングプールに集約され、貸し手は資金をプールに預けるとすぐに利息を獲得し始めることができます。金利はプールの使用率によって決まり、利用率が低いときには金利は安く、需要が増え利用率が高くなると金利も高くなります。レンディングプールには、個々の貸し手に対して比較的高い流動性を維持しながら、成熟度やサイズトランスフォーメーションを達成できるという利点もあります。

数多くのレンディングプロトコルがありますが、最も人気のあるもののいくつかは、Aave、Compound、dYdXです。AaveやCompoundは他のEVM互換チェーンへもフォークされています。下図はDAIとEthの資産加重された借入および貸付レートを示しています。2020年9月の時点で、DAIはDeFiエコシステムのすべてのローンのほぼ75%を占めていました。

2.4 Decentralized Derivatives(分散型デリバティブ)

分散型デリバティブは、元の資産のパフォーマンス、イベントの結果やその他の変数などからその価値を引き出すトークンです。パフォーマンスやイベントなどのデータを追跡するためにオラクルが必要となるため、いくつかの依存関係と中央集権的なコンポーネントを導入する必要があります。デリバティブのコントラクトが複数の独立したデータソースを使用する場合には依存関係を減らすことができます。

アセットベースのデリバティブトークンとイベントベースのデリバティブトークンに分類しましょう。価格が原資産のパフォーマンスを元とする場合、デリバティブトークンをアセットベースとし、価格が資産のパフォーマンスではないその他の観測可能な変数を元とする場合、イベントベースと分類することにします。次のセクションでは、両方のカテゴリについて説明していきます。

アセットベース(Asset-Based Derivative Tokens)

アセットベースのデリバティブトークンは2.3で説明した担保付き債務ポジション(CDP)の拡張として考えることができます。ドルペグのステーブルコインに発行を制限するのではなく、ロックされた担保をに対する様々な資産の合成トークンを発行できます。例としてはトークン化された株式、コモディティ、代替暗号資産などがあります。対象の資産のボラティリティが高いほど、設定される担保比率を下回るリスクが高くなります。

メジャーなデリバティブトークンのプラットフォームはSynthetixです。すべての未払いの合成資産の合計価格に応じて、すべての参加者の債務プールが増減するように実装されています。これによって同じ原資産を持つトークンが代替可能であり続けることが保証されます。償還は発行者に依存しません。ユーザーの債務ポジションが他の人の資産配分によって影響を受けるため、ユーザーが合成資産を作成するときに追加のリスクを負うことになります。

アセットベースのデリバティブトークンに固有のケースは、インバーストークンと呼ばれるものです。この合成資産の価格は特定の価格範囲内での原資産のパフォーマンスの逆関数によって決定されます。インバーストークンによって、ユーザーは暗号資産のショートのエクスポージャーを得ることができるようになります。つまりインバーストークンは原資産のパフォーマンスが上がるとその価格は下がります。

イベントベース(Event-Based Derivative Tokens)

イベントベースのデリバティブトークンは、資産のパフォーマンスではないその他の観測可能な変数(イベント結果など)に基づきます。例えばスマートコントラクトに1 Ethをロックすることで誰でも特定のイベントのサブトークンのフルセットを購入できるとします。このイベントの予測市場が成り立ちます。イベントベースのデリバティブトークンの代表的なサービスはAugurです。

サブトークンのフルセットは、潜在的なイベント結果ごとに1つのサブトークンから構成されており、これらのサブトークンは個別に取引することができます。イベント結果が分かると、スマートコントラクトにロックされている暗号資産は、イベント結果の勝者のサブトークン所有者の間で分割されます。市場の歪みがない場合、各サブトークンのEth建て価格はイベント結果の確率に対応する必要があります。

特定の状況下ではこれらのイベント予測市場は、将来の結果の可能性のための分散型オラクルとして機能する可能性があります。ただし価格はイベント結果のソースの信頼性に大きく依存します。そのためイベントベースのデリバティブトークンは外部に依存性があり、悪意のあるレポーターによって一方的に影響を受ける可能性が存在します。可能性のある攻撃ベクタには、欠陥または誤解を招くイベントの質問内容、イベントを解決できないようにする可能性のあるセット、また信頼性のない不正なソースの選択が考えられます。

2.5 オンチェーンアセットマネジメント

従来の投資ファンドなどと同様に、オンチェーンファンドは主にブロックチェーン上のポートフォリオの分散に使用されます。これによってユーザーは暗号資産のバスケットに投資することが可能となり、トークンを個別に処理することなく様々な戦略を実行することができるようになります。

従来のファンドとは異なり、オンチェーンファンドはカストディアンを必要としません。今まで見てきたものと同様に、暗号資産はスマートコントラクトにロックされます。ユーザーは資金のコントロールを失うことはなく、資金を引き出したり清算したりすることができます。またスマートコントラクトにロックされている資産はいつでも確認できます。

スマートコントラクトは、ポートフォリオの重みをみた半自動のリバランス戦略や移動平均、トレンドトレーディングなどのさまざまな単純な戦略に従うように設定されています。また自動的でなくファンドを管理するために、1人または複数のファンドマネージャーを選択することも可能です。この場合、スマートコントラクトは資産運用会社が事前定義された戦略を順守し、投資家の最善の利益のために行動することを保証します。アセットマネージャーは、ファンドのルールセットとスマートコントラクトに規定されているリスクプロファイルに従った行動を取るよう限定されます。

スマートコントラクトは、プリンシパルエージェント問題の多くを軽減しそれらをチェーン上で実施することによって規制要件を組み込むことができます。結果的にオンチェーンアセットマネジメントでは、ファンドの設定や監査のコストが削減される可能性があります。

ユーザーがオンチェーンファンドに投資するとき、対応するスマートコントラクトからファンドトークンが発行され、ユーザーのアカウントにトークンが転送されます。ファンドトークンはファンドの部分的な所有権を表しており、トークン所有者が資産のシェアを償還または清算することを可能にします。たとえば、ユーザーがファンドトークンの1%を所有している場合、このユーザーはロックされた暗号資産の1%を受け取る権利があります。投資の終了時にファンドトークンはバーンされ、原資産がDEX(分散型取引所)で売却されます。ユーザーはバスケットのシェアに相当するEthで補償されます。

オンチェーンアセットマネジメントの領域ではSet Protocol、Enzyme Finance(Melon)、Yearn Finance、Betokenなどのサービスが展開されています。これらの実装はすべてERC-20トークンとEthに限定されており、レンディング、トレーディングについてオラクル参照とサードパーティーのプロトコルに大きく依存しています。結果として、後に3.2で取り上げる重大な依存関係の問題があります。

Yearn FinanceのVaultsは特定の資産の利回りを最大化するように設計された投資プールの集合です。戦略は多岐にわたりますが、通常はいくつかの手順や積極的なマネジメントが必要です。少額の投資の場合では多くの場合、アクションのトランザクション手数料が高すぎるかもしれません。またユーザは慎重で十分な知識があることが求められます。Vaultsはすべての参加者間でネットワーク料金を比例的に分割することにより、これらの問題を軽減しますが、プロトコルの緊密な統合によって深刻な依存関係も発生させています。

3. 機会とリスク

このセクションではDeFiエコシステムの機会とリスクを分析に後続のセクション4の基礎とします。

3.1 機会

DeFiは金融インフラストラクチャの効率性、透明性、およびアクセス可能性を向上させる可能性があります。またコンポーザビリティの特性によって複数のアプリケーションとプロトコルを組み合わせることができるため、誰でも新しい革新的なサービスを作成することができます。これらの側面については次のサブセクションで説明します。

効率性

従来の金融システムの多くは中央集権的な信頼に基づいており、中央集権機関やサードパーティーに依存していますが、DeFiはこれらの信頼の一部を非中央集権的なスマートコントラクトに置き換えます。スマートコントラクトはカストディアン、エスクローエージェント、CDPなど様々な役割を受け持ちます。

例えば、2者間でトークンなどのデジタル資産を交換したい場合、CCPからの保証は必要ありません。その代わりに2つのトランザクションをアトミックに決済して交換できます。トランザクションの両方の実行が成功するか、そうでなければどちらも実行されません。従ってカウンターパーティーの信用リスクが大幅に減少し、金融取引がはるかに効率的になります。トラストレス等によって信頼要件が低くなると、規制の圧力が軽減され、サードパーティーの監査の必要性が軽減されるという追加のメリットがもたらされます。同様の効果は金融インフラストラクチャのほぼすべての領域で可能でしょう。

またトークンのトランスファーは、従来の金融システムのどの転送よりも高速です。スループット(TPS)は、サイドチェーンやステートチャネル・ペイメントチャネルなどのレイヤー2ソリューションを使用してさらに向上させることができます。

透明性

DeFiアプリケーションは基本的に透過的です。すべてのトランザクションはチェーン上に保存され閲覧することができます。スマートコントラクトのコードもチェーン上で分析が可能です。これらの可観測性と決定論的実行は、前例のないレベルの透明性をもたらしました。

金融データは公開されており、研究者やユーザーが分析に使用できます。金融危機の場合を考えると、従来の金融システムのように過去の履歴(および現在の)データがそれぞれの独自のデータベースに分散しているか、まったく利用できないに比べて大幅に改善されています。このDeFiアプリケーションの透過性によって、望ましくないイベントが発生する前に影響を軽減でき、またイベントが発生した場合の発生源と潜在的な結果をより早くに理解できるようになります。

アクセス可能性

デフォルトでDeFiプロトコルは誰でも使用可能です。DeFiはオープンで誰でもアクセス可能な金融システムを作成できる可能性があります。特にインフラストラクチャの要件は低く、IDがないということによってアクセス制限される、使用できないといった差別が一切ありません。

もし規制がセキュリティトークンなどのアクセス制限を要求する場合には、ベースの決済レイヤーの整合性と非中央集権などといった特性を損なうことなくトークンのスマートコントラクトに制限を実装できます。

コンポーザビリティ

DeFiプロトコルはMoney-legoと呼ばれ、プロトコルはレゴのピースと比較されます。ブロックチェーンの決済レイヤーによって、プロトコルとアプリケーションを自由に相互接続できます。オンチェーンアセットマネジメントのプロトコルは、DEX(分散型取引所)のプロトコルを利用するか、レンディングプロトコルを通じてレバレッジポジションを確立することができます。

プロトコルを統合、フォーク、またはリハッシュして、まったく新しいものを作成することもできます。既存のプロトコルはすべて、個人または他のスマートコントラクトから呼び出して使うことが可能です。この柔軟性によってオープンな金融エンジニアリングへの可能性と前例のない関心が拡大し続けます。

3.2 リスク

DeFiには当然リスクも存在します。スマートコントラクトの実行リスク、オペレーショナルリスク、他のプロトコルや外部データへの依存性などのリスクもあります。これらの側面については、次のサブセクションで説明します。

スマートコントラクトの実行

スマートコントラクトの決定論的で非中央集権的な処理の実行はアドバンテージですが、何かがうまくいかないことがあるというリスクがあります。コードにエラーがある場合、エラーは潜在的に脆弱性を発生させ、悪意のある攻撃者がスマートコントラクトの資金を引き出したり、プロトコルを破壊して使用できなくしたりする可能性があります。ユーザーは、プロトコルが実装されているスマートコントラクトによってセキュリティを担保されていることを認識する必要があります。残念ながら、おおくのユーザーはプロトコルのセキュリティを評価することやスマートコントラクトのコードを読むことができません。監査や保険サービス、および形式検証は部分的な解決策ではありますがが、ある程度の不確実性が残っていることは言うまでもありません。

同様のリスクはスマートコントラクトの実行にも存在します。ほとんどのユーザーは、トランザクションの一部として署名するように求められているデータペイロードの内容を理解しておらず、侵害された不正なフロントエンドによって攻撃される可能性があります。ユーザビリティとセキュリティの間にトレードオフがあることが現実です。例として、一部のDAppsは、ユーザーに無限のトークンを転送するためのアクセス許可を要求します(DEXなどが要求するERC-20のApproveです)。これはトランザクションを便利で効率的にしますが、ユーザーの資金を危険にさらしてしまう可能性があります。

オペレーショナルリスク

多くのDeFiプロトコルやアプリケーションにはアドミンキーがあります。アドミンキーを持っている事前定義されたグループ(通常はプロジェクトのコアチームや個人)がスマートコントラクトをアップグレードしたり、緊急の場合にはシャットダウンを実行することができます。一部のプロジェクトがこれらの予防措置を実施し、ある程度の柔軟性を維持したいことは理解できますが、アドミンキーの存在は潜在的な問題になる可能性があります。キーホルダーがキーを安全に作成または保存していない場合、悪意のある第三者がこれらのキーを不正に入手し、スマートコントラクトを危険にさらす可能性があります。またはコアチームメンバー自身が悪意を持っており、金銭的なインセンティブによって悪意のある行動を取る可能性も存在します。

ほとんどのプロジェクトでは、マルチシグとタイムロックを使用してこのリスクを軽減しようとしています。マルチシグはスマートコントラクトの機能を実行するために M-of-N 個のキーを必要とするもので、タイムロックはトランザクションを(正常に)確認できる最も早い時間を指定するものです。

別の方法として一部のプロジェクトは投票スキームを採用しています。このスキームではプロトコルのガバナンストークンによって、その所有者にプロトコルの変更案などに投票する権利が与えられます。しかしながら、多くの場合、ガバナンストークンの大部分は少数の人々によって保有されておりアドミンキーの場合と同様の懸念があります。一部のプロジェクトでは、この投票力の集中を避けるためにプロトコルの使用状況や投票プロセスへの参加状況、またサードパーティーでのトークンステーキング状況などに応じて基準を満たすアーリーアダプターやユーザーにインセンティブを与えています。ローンチが比較的「公平」であると認識されている場合においても、実際のガバナンスのディストリビューションは一部に集中したままであることが散見されます。

ガバナンストークンは、望ましくない結果につながる可能性があります。実際問題としてこれらの権利がトークン化されていると、権力の集中がさらに問題になる可能性が考えられます。トークンに権利確定期間がない場合、悪意のあるファウンダーは、AMMにプールされているトークンをダンプすることによって大規模なサプライショックを引き起こし、プロジェクトの信頼性を毀損する可能性があります。さらにイールドファーミングは、すでに稼働しているプロトコルが比較的新しいプロトコルのガバナンストークンのかなりの部分を引き受けることで集中化を加速させる可能性があります。このことはそれらのトークン所有者がDeFiインフラストラクチャのかなりの部分のコントロールを得る大規模なメタプロトコルが作成されることを示唆しています。

依存性

セクション3.1で述べたとおり、DeFiエコシステムの最も有望な特性はオープン性とコンポーザビリティです。これらの特性が様々なスマートコントラクトと分散型アプリケーションの相互のやり取りを可能にし、既存のプロトコルの組み合わせによって新たなサービスを提供することができるようになります。反対に、これらの相互作用は深刻な依存関係をもたらす可能性があります。プロトコルのスマートコントラクトに問題がある場合、DeFiエコシステム全体の複数のアプリケーションに影響を及ぼす可能性があります。さらにはDAIステーブルコインにおける問題や、EthのサプライショックはDeFiエコシステム全体に波及的に問題を起こす可能性があります。

例を示します。あるユーザーがMakerDAOのスマートコントラクトの担保としてEthをロックし、DAIステーブルコインを発行するとします。さらに発行したDAIステーブルコインが、レンディングスマートコントラクトにロックされており、cDAIと呼ばれる有利子デリバティブトークンが得られていると仮定しましょう。cDAIとEthをペアとしたUniSwapのETH/cDAI流動性プールに流動性を提供することで、ユーザーは流動性プールのシェアを表すUNI-cDAIトークンを得ることができます。このようにスマートコントラクトが追加されるたびに、バグの潜在的なリスクが高まっていきます。上記のシーケンス内のいずれかのスマートコントラクトにバグがあり、何かがうまくいかなかった場合、流動性プールのシェアを示すUNI-cDAIトークンが無価値になる可能性があります。ラッパートークンを作成するこれらの「トークンの上にトークンを置く」プロトコルは、理論上の透明度が実際の透明度に対応しておらずプロジェクトは複雑に絡み合っています。

外部データ

言及する価値のあるもう1つのポイントは、多くのスマートコントラクトが外部データに依存しているという事実です。スマートコントラクトがチェーン上でネイティブに利用できないデータに依存している場合は、それらのデータはオラクルなどを介して外部データソースによって提供される必要があります。

オラクルは依存関係を導入する場合があり、中央集権度の程度の強いスマートコントラクトの実行につながる可能性があります。このリスクを軽減するために、多くのプロジェクトでは、多種多様なデータ提供スキームを備えた分散型オラクルネットワークを活用するようになっています。

違法な活動(Illicit activity)

規制当局に共通する懸念は、資産の移動ややり取りの記録や監視を避けたい個人が暗号資産を使用する可能性がある、ということです。 DeFiの固有の透過性はこのようなユースケースの抑止力となり得ますが、ネットワークの偽名性はある程度のプライバシーを提供する可能性があります。このような偽名性は悪意のあるユーザ・主体によって悪用されるかもしれません。

規制当局は細心の注意を払って行動し、イノベーションを阻害することなく必要に応じて介入できる妥当な解決策を見つける必要があります。さらに、ブロックチェーンのような分散型ネットワーク・分散型金融を規制することは実行可能ではないかもしれない、ということに注意する必要があります。規制当局が分散型金融を規制できるかどうか(または規制すべきかどうか)は疑問ですが、フィアットの入口出口と分散型劇場という特に注意が必要な2つの領域が存在します。

フィアットの入口出口は、従来の金融システムへのインターフェースです。ユーザーが自分の銀行口座からブロックチェーンベースのシステムまたはその逆に資産を移動したいときは、必ず既存の金融サービスプロバイダーを経由しなければなりません。これらの金融サービスプロバイダーは規制されており、資金の出所に関する身元調査(KYCなど)が必要になる場合があります。

同様に、正当な分散型プロトコルと、分散型であると主張しているが実際には特定の組織や少数の個人がコントロールし、管理下にあるプロジェクトとを区別することが重要です。正当な分散性を持つものであれば中間業者を排除し適切な可能性をもたらすかもしれませんが、後者の場合には中央集権性を持ち、本質的には2つの世界の悪い部分を持っているかもしれません。

このことを念頭におき規制当局はプロトコルが正当な分散性を持つプロトコルであるか、もしくは規制を回避するためにDeFiの冠を持つだけの中央集権的なシステムであるかを見極める必要があります。

スケーラビリティ

ブロックチェーンは、分散性・セキュリティ・スケーラビリティのトレードオフに直面しています。Ethereumブロックチェーンはそれなりに分散化されかつセキュアであると見なされていますが、ブロックスペースに対する過剰な需要の対応に苦労しています。トランザクションに係るガス代の高騰(取引手数料)と長いトランザクションの待ち時間は、DeFiエコシステムに悪影響を及ぼしており、資金に余裕があり大規模な取引を行うユーザーに有利な状況をもたらしていました。

この問題の解決策には、Ethereumのレイヤー1でのシャーディング(Eth2.0で導入予定)のほかステートチャネル、ZK(ゼロ知識証明)ロールアップ、オプティミスティックロールアップなど様々なレイヤー2ソリューションが検討されます。ただし、これら多くの場合、スケーラビリティ向上の取り組みによってコンポーザビリティとトランザクションのアトミック性が弱まります。一方で、スケーラビリティを確保するために一方、DeFiをより中央集権化されたチェーンに移動することも、DeFiのバリュープロポジションを本質的に損なうため、合理的なアプローチではないように思われます。

上記のトリレンマを克服し、真に分散化されたブロックチェーンが需要に対応してオープンで透明性のある不変の金融インフラストラクチャの基盤を提供できるかどうかはまだ未知数です。

4. 結論

DeFiは真にオープンで透明性があり、イミュータブルな金融インフラストラクチャを作成する可能性があります(また作成しています)。 DeFiは相互運用性の高い複数のプロトコルと分散型アプリケーションで構成されており、すべての個人がブロックチェーン上でトランザクションを確認できます。データは収集可能でユーザーやリサーチャーは市場の分析や危機の予兆の分析にいつでも使用できます。

DeFiはイノベーションの波を起こしました。開発者はスマートコントラクトと分散型のブロックチェーンによる決済レイヤーを使用して、トラストレスに従来の金融商品やサービスを再生産しています。さらに開発者は、ブロックチェーンの特性を生かし、基盤となるパブリックブロックチェーンなしでは実現できなかったであろう、まったく新しい金融商品を作成しています。アトミックスワップ、自律型流動性プール、分散型ステーブルコイン、フラッシュローンなどはDeFiエコシステムの大きな可能性を示す多くの例のほんの一部です。

これらの技術には大きな可能性がありますが、それにはリスクが伴います。スマートコントラクトには、意図しない使用を引き起こす可能性のあるセキュリティ上の問題があり、スケーラビリティの問題によってユーザー数は制限される可能性があります。また『分散型』という用語に騙される可能性があります。

多くのプロトコルやアプリケーションは、前述の外部データソースとアドミンキーを使用することで、システムを管理したり、スマートコントラクトのアップグレードを実行したり、シャットダウンを実行したりしています。このことは必ずしも問題とはなりませんが、トラストレスと謳いながらも、多くの信頼が実は関係していることをユーザーは認識しておく必要があります。これらの問題を解決できれば、DeFiは金融業界のパラダイムシフトにつながり、より堅牢でオープンで透明性の高い金融インフラストラクチャを達成できる可能性があります。

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Yuya Sugano
Yuya Sugano

Written by Yuya Sugano

Cloud Architect and Blockchain Enthusiast, techflare.blog, Vinyl DJ, Backpacker. ブロックチェーン・クラウド(AWS/Azure)関連の記事をパブリッシュ。バックパッカーとしてユーラシア大陸を陸路横断するなど旅が趣味。

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