Fidelity『ビットこを理解する』を読む

Yuya Sugano
27 min readMar 14, 2021

--

引き続きのMicro Strategyやテスラのビットコイン大量購入、既存の金融機関の再評価で2021年はさらに暗号資産関連のトラクションは高まりそうです。ゴールドマンサックスやバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNY Mellon)などの大手の金融機関でビットコインのカストディサービス・先物を再開する動きが散見されています。少し前ですがアメリカの有名大学のハーバード、イェール、ブラウン大学などの基金がビットコインを購入しているというニュースも話題に上りました。カナダでのビットコインETFの登場CMEでのEthの先物取り扱いも始まりEtherumを始めとするアルトコイン市場も活況となっています。

仮想通貨取引所のBinanceは暗号資産による支払い機能を発表しました。キャッシュレス支払いのようにQRコードで支払いが可能となっているようです。30種類以上の暗号資産による支払いに対応しています。日本でも日常的に暗号資産で支払いできるようになるんでしょうか。またつい先週ですがNFTアーティストBeepleの作品『Everydays: The First 5000 Days』が約75億円で落札されました。これからはペイメントや資産のデジタル化のような実際のサービスに対するブロックチェーンのユースケースも一般的になっていくでしょう。マスアダプションの日は近そうです。

Image by xresch from Pixabay

Disclaimer

This article is not either an investment advice or a recommendation or solicitation to buy or sell any investment and should not be used in the evaluation of the merits of making any investment decision. It should not be relied upon for accounting, legal or tax advice or investment recommendations. The contents reflected herein are subject to change without being updated.

さてビットコインはブロックチェーン技術を採用した信頼できる第3者を必要とせず、信頼の代わりに暗号的証明によって2者間が直接取引することを可能にする電子支払いシステムです。またその支払いシステム内で使用される通貨(通貨単位としてBTCをここでは使用する)の呼称でもあります。[1]

ビットコインの捉え方には人によって様々なバリエーションが存在しています。ビットコインをアセットクラスの1つとして、例えば投資対象と見る場合には、機関投資家や金融機関がビットコインをどう考察するかに認識方法のヒントがあると思います。資産運用会社であるFidelityJurrien Timmerさんが投資家向けに書いた『ビットこを理解する』というペーパーはこれまでのアイディアの総括を行っており読みやすかったです。個人的な備忘録としてここにまとめます。直訳ではなく補足情報を適当に加えています。[2]

ポイント

  • 数多くの投資家やポートフォリオマネージャーがビットコインは正当で明確な資産クラスと見なし始めています
  • ビットコインは2,100万 BTCという有限の資産です。独自の供給と需要がありネットワークが増加するにつれて、価値と耐久性が増加します
  • デジタルゴールドと見なされる場合、ビットコインは『Store of Value』として機能し、インフレやハイパーインフレに対するヘッジとなる可能性があります
  • ただしビットコインは、ボラティリティ、その他競合、代替資産、規制やその他の要因によって、適切な選択ではない可能性があります
  • 一部の投資家は60対40の株式/債券ポートフォリオの債権側の代替としてビットコインを検討したいと思うかもしれません

希少なアセット

最初の暗号通貨であるビットコインは、2008年にSatoshi Nakamotoと名乗る人物によって発案されました。暗号理論に関するメーリングリストにそのアイディアを投稿しはじめ、2009年にはビットコインのソフトウェアをネット上に発表したことでビットコインの最初の採掘がはじまりました。ビットコインの重要な特性の1つにプロトコルに組み込まれた希少性があります。

ビットコインの総供給量は2,100万 BTCに制限されており、多くのビットコインが採掘(ビットコインのソフトウェアで計算され作成されること)されると新たに採掘しようとするインセンティブは減少します。これは鉱山での金銀採掘と同じです。山にある金の残量が少ない状況では少数の採掘作業者しか金を得られる可能性がないためです。

採掘者はマイナーとも呼ばれます。マイナーは新しいブロックを生成することができた場合に報酬として新しいビットコインを受け取ります。ブロック生成はビットコインのソフトウェアで行われ、取引のトランザクションのデータがブロックチェーンの元帳へ取り込まれます。この報酬は210,000ブロックごと(約4年)に半減していきます(図1)。

2020年に半減期があり、ブロックあたりの報酬は6.25 BTCまで減額しました。ビットコインの価格に変動がない場合は採掘による報酬が減額していくために、マイナーの採掘へ参加するインセンティブは減少していくことになります。またこの報酬半減の仕組みによって漸近的な供給曲線を描き、ビットコインにアセットとしての希少性が与えられることになります。

2021年現在で1,860万 BTCが既に採掘されています。2140年ごろにビットコインの採掘が完了する見込みです。いま現在で残りのビットコインは230万 BTC程度でありこの希少性が価格上昇圧へと繋がっているという見方もできます。

How Many Bitcoins Are There?

ストック対フローモデル

前述のとおりビットコインのソフトウェアで設定された不変の総供給量がビットコインを希少としている基本的な理由です。これは政府、中央銀行の発行するフィアット(不換紙幣)と比べてみると分かりやすいでしょう。現代のほとんどの貨幣は兌換の必要のない通貨であり、政府の信用を裏付けとして通貨発行が行われています。政府は量的緩和などの金融政策によって実質的に無限に紙幣を刷ることが可能です。この点は後で述べることとして、まずはビットコインのストック対フロー価格モデルを見てみましょう。

モデルは単純で現在の供給(在庫)に対する新規供給に必要な年数(フロー)を測定するだけです。高いS2F(ストック対フロー)はそれだけアセットが希少であることを示しています。例えば金のS2Fは62であることが知られています。ビットコイン、ストック対フローなどで検索するとモデルの作者であるPlanB(Twitterアカウント@100trillionUSD)のペーパーが出てきます。論文は複雑な回帰分析の手法を利用していますが、数学を理解する必要はありません。ポイントは増分供給曲線を逆にして価格に対して回帰しているところです(上の図2)。以下は元ネタの記事。[3]

日本語で検索をすると以下の記事が上位表示されました。木村公認会計士事務所さんの『話題のビットコインの価格モデル、ストック対フローモデルの紹介』です。2020年5月の半減期の時点でビットコインのS2Fが54、2024年では115となる点が紹介されています。2024年にビットコインのS2Fが金を大きく抜くことが分かります。[4]

人類史上初めてゴールドを超える希少性の高い資産になるのです

https://kmra-cpa.com/ja/introduction-stock-to-flow-model/

供給の法則の下では、価格が供給を促進します。逆に数量が価格へどう影響するかを見てみましょう。以下の図3は逆供給曲線とビットコイン価格を図示したもので、2本の曲線には非常に強い関係が見られると思います。ただし相関があるように見える2本の曲線には落とし穴がある可能性があります。業界では過去のサンプルからリアルタイムデータを使用するようにするとモデルに全く当てはまらなくなるような、いわゆる完璧な回帰の例であふれているからです。

この結果を十分に強調することはできないでしょう。過去のパフォーマンスから将来の予測結果を保証することはできません。これらはただのモデルです。このことを念頭に置いた上で先の図3にある2本の回帰モデルを見てみましょう。それぞれ過去と将来のビットコイン供給の伸びを価格に対して回帰させています。ビットコインの採掘による増加については既に触れたので、これによってストック対フローモデルによって将来の価格を予測することができるようになります。

まず2010–2020年のビットコインの過去履歴を価格に対して回帰させました。このモデルは将来の供給曲線を予測し、ストック対フローモデルを適用します。これは多変量モデルのような複雑なものではなく単純な回帰の結果です(繰り返しですがこれは回帰モデルであって、予測は将来の数値を保証するものでは当然ながらありません)。

前述の実データを採用した場合の懸念から、今度は2016年までのデータを使用して2番目のモデルを作成しました。そしてその予測をその後の実際のデータと比較しました。結果的に2番目の予測も最初のモデルの予測と似ておりビットコインに対するストック対フローモデルが何らかの意味を持つものと考えられなくないと思われます。

ストック対フローモデルにおけるビットコインの価格予測が以下のように算出されます。またストック対フローモデルによると2020年5月の半減期の後の1 BTCの価格は55,000 USD(約600万円)と算定されていました。この数字はいま現在の1 BTCの価格とほぼ一致しています。

  • 今年は24,000 USD(既に達成)
  • 2025年には463,000 USD(次の半減期後)

ただしストック対フローモデルによる当てはめには限界があります。回帰分析では相関を因果と見なすことはできず、ストック対フローモデルは価格が完全に供給によるものであると限定してしまっています(相関と因果は別のものです)。それでは需要側のモデルはどう考えることができるでしょうか。ビットコイン価格が初めてに2万 USDに達した2017年を振り返ってみましょう。それまで価格曲線はモデルに一致していましたが、3,000 USDへ下落した後にまたモデルの曲線上へ戻ってきたように見えました。

価格は需要と供給という2つの要因によって決まります。供給側だけではありません。アセットがどれほど希少であったとしても需要がない場合には、価格に対して供給は何の意味も持ちません。そういった意味でストック対フローモデルは供給側から見た1次元的なモデルであるとみなすことが出来ると思います。

メトカーフの法則

ビットコインの需要側のダイナミクスはメトカーフの法則で説明されています。メトカーフの法則はユーザ数が直線的に増加するとき、そのネットワークの価値(ここではビットコインの価格と想定)は幾何学的に成長するというものです。したがってビットコインの価値(価格)は取引所、ATM、リテール、保険会社、銀行や無数の中小企業などのネットワークよりも早く成長するはずです。メトカーフの法則はS-curvesと呼ばれる成長曲線を見ることで簡単に理解できます(両端が平坦で中央が急になっています)。

メトカーフの法則はスマホの普及率からブロードバンドのサブスクリプションなど迄いたるところで見ることができます(図4、上にある)。リニアスケールでは、S-curvesは英字のSのような形に見えますが、対数目盛へプロットすると、図4の右の図のような曲線を表します。曲線は指数関数的に始まり、浸透率が100%に近づくにつれて漸近しフラットになっていきます。図4は世界的なスマホの加入者の数と1 USD以上を持つビットコインアドレスの数を表示したものです。左はリニアスケール、右は対数目盛でプロットしています。

ただしスマホの浸透率とビットコインのアドレスの増加は完璧なアナロジーとはなりません。なぜならいくつかのネットワークアクティビティの増加は既存のウォレット(PayPalなど)によるかもしれませんし、シングルユーザーが複数のアドレスを管理することもできるからです(例えばハードウェアウォレットの中で)。スマホの浸透率とビットコインのアドレス数は単純に対応はしませんが現時点で比較できるものではベストであると考えられます。

したがってここでは軸の異なるものを比較している点には注意してください。図4の右の図を見ると、ビットコインの成長曲線はまだ初期の指数関数の段階にあって、何年何十年とこの状態を保つかもしれないことが見て取れます。単純に見ると需要側の指数関数的な成長も可能であることを示唆しています。強気な見方をすると、ビットコインの需要はストック対フローモデルで試算した供給の限界まで成長する可能性があると思います。

ビットコインは『Store of Value』として機能していますが、同時にブロックチェーンの技術革新の不可欠な部分であるためにさらに爆発的な需要をもたらすポテンシャルがあると思われます。

『Store of Value』としての金とビットコイン

金には『Store of Value』として、またインフレに対する保護資産としての長い歴史があります(図5)。金はクロイソス王が使用する前から、長い間お金として使われていました。金は何千年もの間、グローバルコマースのバックボーンとして使用され続けています。アメリカでは金本位制が設立されて以来、度々この制度をオン/オフしていますが、金は1944年までお金それ自体でした。それ以降アメリカではしばらく金はドルを裏付けるリザーブアセットして機能していました。1971年のブレトンウッズ体制の崩壊から、私たちは「法定紙幣」の時代に生きており、金準備は世界の金融システムでますます少なくなっているようです。1970年に世界の準備資産(お金)に対する金準備の比率がおよそ2対1だったのが、現在では比率は10対1ほどにまで減少しています。

2007年から2008年にかけて、世界の中央銀行は前例のないペースでバランスシートを拡大し始めました。さらに2020年には、COVID-19の経済的影響の一部を相殺するために大幅に加速しました。いまアメリカ連邦準備制度のバランスシートはGDPの約36%になっており、これは南北戦争と第二次世界大戦後の以前の急上昇をはるかに上回っています。マネタリーベースは2020年12月の時点でGDPの約24%であり、これはアメリカの歴史上で最高レベルです。

お金が息を呑むようなスピードで印刷される法定紙幣の時代では、私たちはお金を裏付ける金をそれほど保有していません。したがって一部の人にとっては、金を資産として保有することが魅力的になりました。近年ビットコインがデジタルゴールドとしてこの輪に加わっています。それでは金とビットコインではどちらが良いでしょうか。ビットコインは金のように希少で不足していますが、実体のある金とは異なり、ビットコインは手で触れたり、見たりすることはできません。

またビットコインはリスクにさらされている可能性のある新しいアセットクラスで、当局や金融庁などの各国の規制の動きに関する不確実性は、需要に影響を与える可能性があります。コンセプチュアルでいまだ証明されていないビットコインと、何千年もの間お金やお金の裏付けとして使用されてきた金という鉱物で競合しているため、このことの理解にはある程度の思考の飛躍のようなものが必要かと思います。次に金とビットコインの1つの顕著な違いについて見てみましょう。

ビットコインには金に比べて独自の利点がある可能性があります。既にみてきたとおりビットコインの供給は設計上有限です。図6の左の図の2つの線は、金の供給曲線(1970年以降の世界の累積金生産量)とビットコインの供給曲線を示しています。ビットコインの供給の伸びは既に横ばいになってきていますが、それに対して金の供給量(生産量)は常に安定しています。図6の右の図は金とビットコインそれぞれのストック対フローモデル値のプロットです。金のストック対フローは約60でかなり安定しているように見えます。端的にいって金は希少ですが、それほど希少性はありません。2024年の半減期によってビットコインのストック対フローは金を上回り、ビットコインは最終的に金よりも遥かに希少になります。

バリュエーション(評価)

現物の金やビットコインは利回りを生み出さないので、従来の割引キャッシュフローモデル(DCFモデルのこと)では評価できません(物質がないのにビットコインを現物と呼ぶのは皮肉的ですが)。いま世界の債券利回りはゼロに近く、ブルームバーグは世界中で約18兆ドルのマイナスの利回りの債務があることを報告しています。アメリカ連邦準備制度理事会は、2019年中ごろ以降のネガティブショートと中期の実質金利のサイクルをレポートしています。いまゼロ利回りの資産を保持する機会費用は、債券利回りがプラスだったときに比べてかなり低くなっています。これは重要なポイントです。今日の低利回りの状況で金とビットコインは債券に対して競争力があることが分かります。60対40の株式/債券のポートフォリオの世界では、金とビットコインには潜在的な可能性があると考えられます。40の債権側にディスラプターがありますが、60の株式側にはそれほど多くありません。これについては後で詳しく見ていくことにします。

さて様々な資産カテゴリーの相対的なサイズについて考えてみましょう。投資可能なものの市場全体の金融資産(株式、債券など)は約160兆ドルです(2020年12月現在)。すべての金地金は約11兆ドルと推定されています。ビットコインの市場価値は8000億ドル(2021年2月15日現在)ほどです。ビットコインは急速に追いついてきていますが、金のまだ10分の1程度であることが分かります。ビットコインはボラティリティが高く、不安定であることが証明されていることを繰り返しておきます。ビットコインのボラティリティの高さはポートフォリオの短期的な結果について影響を与える可能性があります。使用されたモデルは時間の経過とともにビットコイン価格が上昇していることを説明している可能性がありますが、モデルは過去の結果から将来の予測を保証することはできないことを再度強調しておきます。

これまで見てきた需給と成長の要素を考えたときに、金とビットコインは金融資産としてどのように評価されるべきでしょうか。相対的なバリュエーションのダイナミクスを正しく理解するために、まず時間経過に伴うまた特殊な状況下における株式について確認し、次に債券と金を見ていくことにします。

インフレヘッジとしての株式

まずは株式です。株式は伝統的にインフレに対する効果的なヘッジとして機能してきました。過去のハイパーインフレーションの時期を調べることによってこれは明らかにみてとれます。例えば1980年代と90年代のブラジルや、ワイマールドイツが良い例として頭に浮かびます。

ドイツでは1919年の初め1 USDで9 パピエルマルクへ交換できました。1923年の11月まで同様の1 USDを4.2兆マルクへ交換することが可能となっていました。以下の図7の右のグラフを見ると当時のドイツの消費者物価指数とドイツの株式市場が実質的に無限大に向かっていることが分かります(柱のように線が立っていますね)。

これは株式がインフレプロテクションとして機能していたことを意味しています。ただ注意点として、マルクが価値を失っているとき、高値のドイツ株が他の国でそれほど流通できたわけではありません。このとき金がハイパーインフレーションに対するインフレヘッジを行う究極の『Store of Value』として登場しました。ドイツは1914年に金本位制を放棄しましたが、第一次世界大戦で敗北した後、ドイツは金で裏付けられた通貨で戦争賠償をする必要がありました。

1920年代初頭のドイツの株式市場が名目上急上昇している一方で、ほとんどの投資家は実質的な損失を経験していました。この不均衡は株式がインフレに対して有効であったことを意味しますが、ハイパーインフレーションに対しては金がさらに優れていることが証明されています。インフレ・ハイパーインフレのケースを見てきましたが、それではそのようなイベントのない通常の状態ではどうでしょうか。

株式は金に比べて明確な利点が1つあります。複利の魔法です。現物の金(またはビットコインも同様)では、資産を所有することによる複利効果はありません。株式は時間の経過によるリターンとともに、複利による劇的な結果を生み出す可能性を秘めています(ただし暗号資産はレンディングサービスにより貸出し利回りを得ていくことは可能)。

各アセットと時間経過

さまざまな時間経過における株式、債券、金などの購買力を比較することは有益です。以下の図8のオレンジ色の線は、2つの異なる方法でインフレを描いています。実線は時間の経過に伴う累積のインフレを表しています。破線はインフレの逆数を表します、つまり購買力の低下です。1700年から現在までを振り返ると金価格がおおまかにインフレの実線に沿って上昇していることが分かります。株式や債券の複利効果は図を見て頂いている通りです。

1700年の1 USDはインフレを加味すると今日の65 USDに相当し、また1 USDの1700年の金は今日の94 USDの価値を持つことが分かります。可能であったならば、1700年に購入した1 USDの株式は今日ではおよそ40億 USDの評価になることになります。このケースではインフレの魔法も複雑になり、複利効果を加味する必要があります。株式への長期的なアセットアロケーションがインフレ保護と複利効果双方のアドバンテージを享受することができるように見えます。これは1700年、1800年からでも1900年からでも変わりません。

ここで1970年代にアメリカが国際通貨制度であるブレトンウッズ体制を抜けたあとに目を移してみましょう。フィアット(不換紙幣)が金本位制に取って代わると、現物の金自体を自由に取引できるようになりました(そのような取引が合法であった場合ですが)。金による「リターン」は債券とインフレの両方を上回り結果として株式との競争力が高まりました。

別々の4つの期間を簡単に比較してみましょう。以下の図9には開始年を1700年、1800年、1900年、あとは1970年として設定した4つのCAGRのデータグループが存在します。ここでCAGR(Compound Annual Growth Rate)は年平均成長率の名目値でそれぞれのバーは株式、債券、金、インフレの年間成長率です。4つの異なる期間設定にわたって株式のリターンには一貫性があることが分かります。

歴史がなぜ株式を投資戦略の基礎へ据える必要があるか、ということを物語っていると思います。まず株式は一貫したリターンを提供します。そしてある程度のインフレヘッジに利用でき『Store of Value』として機能します。複利の魔法は言うまでもありません。また債券も価値があることが証明されています。図9のBondsをみると債権も一貫して約5%の名目CAGRを生み出していることが分かります。興味深い点は、グラフの左から右に移動しインフレが上昇していくに連れて、金の競争力が強まっていることです。

図9の一番右のグラフは1970年代だけの資産クラスの名目CAGRを描いています(1970年代は低成長とスタグフレーションの時代でした)。株式のバリュエーションはインフレに反比例する傾向があり、1970年代は株価収益率(P / E)が20の倍数で始まり7で終了しました。この期間で金は他のアセットクラスを大幅に上回る数値を記録しています。

参考までにグラフには60対40の株式/債券ポートフォリオと60対30対10のポートフォリオ(10%は金)の結果も含まれています。これらのポートフォリオは両方とも株式のケースと同じようにインフレに歩調を合わせていますが、そのいずれもインフレに対してプラスの実質的なリターンを生み出せていません。金を含む60対30対10のポートフォリオは、標準の60/40のポートフォリオに対してCAGRで20ベーシスポイントのみを追加で生み出しましたが、その違いは大きくはなく、10%の金のトランシェは目立った変化をもたらすに至っていません。

フィアット(不換紙幣)の時代がはたしてインフレに遭遇するのか、ドルの暴落に遭遇するのかは分かりません。日本はすでにこの道を進んでいますが、日本経済のインフレは実質的にゼロであり、円は安定した通貨のままです(以下、図10)。日本銀行のバランスシートはGDPの128%となっています(アメリカ連邦準備制度は約36%)。2008年以降、日本のGDPに対する債務比率は約100パーセント上昇しており、そのすべてが中央銀行によってマネタイズされました。それでもその5年間の年間インフレ率は上昇しておらず、しかも円はまだ崩壊していません。

ここから見える1つの教訓は、平時では投資家は金のようなインフレヘッジへのポートフォリオの組成を制限したいと思う可能性があることです。なぜなら株式など複利のある投資商品へ投資する機会費用が考慮されるからです。条件が極端となったとき(インフレまたはハイパーインフレなど)、どんなに大きなヘッジをかけたとしても十分でないように思われます。投資家はこのようなジレンマに常に直面してきました。将来を確実に予測することは誰にもできません。

結論

データをいくつか掘り下げてきましたが要点をまとめてみましょう。まずビットコインは、アセットクラスとして既に正当で主流なものになっていると思われます。供給側ではストック対フローモデル、需要側ではメトカーフの法則を使用し価格の予測が可能です。ビットコインの時価総額は8000億ドルほどで、約11兆ドルある金の合計の一部です(世界の金融資産の合計が160兆ドルであることは言うまでもありませんが)。

金利がゼロに近づいている、またはマイナスで中央銀行が紙幣を刷り続けている状況でビットコインがその日々を過ごしているのは不思議ではないでしょうか。現在の経済状況は涙の物語では終わりません。日本経済のもつれは、通貨の価値低下が発生している際に、金やデジタルアセットのいずれか(または両方)を所有することを主張するために考慮すべき重要な反論でしょう。いずれにしても、ビットコインは信頼性を増しており、ビットコインは時間の経過とともに、金からより多くのマーケットシェアを奪うと推測されます。

フィアット(法定紙幣)の前の時代、金兌換制があり金の価格がほぼ固定されていた頃では、金はお金自体でした(宝石、薬、電子機器、その他の商業用途などの実用途を除く)。複利効果が望めないために、金はインフレやハイパーインフレの期間を除いて、株式に対抗することができませんでした。ただブレトンウッズ体制が崩壊し、金の自由な取引が可能になるとルールは変わりました。昔は債券が金を2対1で上回っていたにも関わらず、1970年以降は金と債券は収益の面で互角といったところまで来ています。

60対40のポートフォリオを考えてみます。もし金が債券と競争力があり、債券の利回りがゼロに近い(もしくは負の利回り)場合、ポートフォリオの名目上の債権の一部を金や金のように振舞うアセットに置き換えることは理にかなっているでしょうか。実際すでに多くの人がインフレヘッジされた国債、低いデュレーションの銀行ローン、またはコモディティを通じてそうしているように見えます。またそのことに係る機会費用はますます少なくなっています。

もしビットコインが正当な『Store of Value』であり、金よりも希少で稀少性があるとして、さらに潜在的に指数関数的な需要のダイナミクスがあるのなら、ポートフォリオに含めることを検討する価値があるでしょうか。高いボラティリティ、CDBCなどの競合、政策の介入など議論された多くのリスクにもかかわらず、いくつかの場合はポートフォリオへ組み入れることは正しいかもしれません。少なくとも60対40のポートフォリオ比率の内の債権である40側に適用される場合は、その答えは「はい」であると思われます。それらの投資家にとってはビットコインの問題はもう「買うかどうか」ではなく「いくらで買うか」となります。

有名企業のビットコイン保有量。

  • MicroStrategy: 91,326 BTC
  • Tesla: 48,000 BTC
  • Galaxy Digital Holdings: 16,402 BTC
  • Square Inc.: 8,027 BTC
  • Marathon Patent Group: 4,813 BTC

--

--

Yuya Sugano
Yuya Sugano

Written by Yuya Sugano

Cloud Architect and Blockchain Enthusiast, techflare.blog, Vinyl DJ, Backpacker. ブロックチェーン・クラウド(AWS/Azure)関連の記事をパブリッシュ。バックパッカーとしてユーラシア大陸を陸路横断するなど旅が趣味。

No responses yet